書評:村上世彰「生涯投資家」|村上ファンドが目指したものとは?

 
lifelong-investor

この記事を書いている人 - WRITER -

企業買収や企業再生の話が出てくるとき、必ず話題になるのが、「会社は誰のものか?」ということです。

社長のものでしょうか?一生懸命働いている社員のものでしょうか?それとも株主のものでしょうか?

今回紹介する「生涯投資家」の村上世彰(むらかみ よしあき)は、株主として自らの考えを表明して、経営改革を迫る「モノ言う株主」としてかつて世間を賑わせました。

「お金を稼ぐことは悪いことですか」等の発言がメディアで取り上げられ、インサイダー容疑で逮捕・実刑判決を受けたことから、金の亡者とみなされ人々から非難を受けた村上ですが、彼の目指した理想は決してお金儲けではありませんでした。

逮捕から10年を経て、一体彼が何を目指していたのか。

その想いをつづった自伝が、本書「生涯投資家」です。

【参照:生涯投資家

 

村上世彰とは?

村上世彰は、投資家の父のもとで生まれ育ちました。

小学3年生の頃から、大学までのお小遣いを前借りして投資を始め、投資家の世界に踏み出していきます。

彼の投資哲学は、「上がり始めたら買え。下がり始めたら売れ」というものです。

一番安いところで買ったり、一番高い所で売れたりするものと思うな、というのは父親からの教えでした。

徹底したバリュー投資。保有している資産に比して時価総額が低い企業に投資する、という極めてシンプルなものですが、この考えが、「モノ言う株主」の根本にあります。

持っている資産に対して時価総額が低いということはその企業の価値を市場が正しく評価できていないということを意味します。

つまりは、経営層が企業のポテンシャルを正しく引き出せていないということです。

この状況に対して、提言し改善を図るのは企業に投資をしている株主としての当然の権利だという考えのもと、村上世彰は、東京スタイルとのプロキシ―ファイト(議決権争奪戦)、ニッポン放送への投資、阪神電鉄への株主提案など多岐にわたり活動していきます。

 

企業が上場するということ

一部上場企業と聞くと、立派な企業だと思いませんか?

上場するということはそれだけでステータスとして評価され、社会に中で一定の信頼を得ているものだと思われています。

しかし、本来、上場するということは社会的ステータスを得ることが目的ではありません。

企業は上場のメリット・デメリットを勘案して、どうするかを選択するべきです。

 

上場のメリットとデメリット

では上場のメリット・デメリットとはどのようなものなのでしょうか。

まずメリットですが、以下の2つが挙げられます。

  1. 株式の流動性が上がること=株式が換金しやすくなること。
  2. 資金調達がしやすくなること

上場して、株式を発行すれば、市場で株式の売り買いをしやすくなります。市場でお金を流通しやすくなる、つまり流動性が上がれば株式をお金に換えることもしやすくなります。

創業者個人で100%の株式を持つ企業が上場させれば、創業者は株を売却益を手に入れることができるわけです。

日本での多くのベンチャー企業の創業者が自身の企業を上場させ、その株式を売却することによる一攫千金を夢見ています。

2点目の資金調達のしやすさは上場企業にとってとても重要なことです。

新しく株式を発行することで、株を買う人から資金を得られるメリットを上場した企業は獲得できることを意味しています。

この2つが必要ない場合には上場する必要がないというのが村上世彰の持論です。

今まで上場していたから、上場してないと恰好が悪いからという理由で深く考えることなく上場を選択し続ける会社は失格であるとさえ述べています。

なぜなら、メリットだけでなく、上場することでデメリットも被ることになるからです。

主なデメリットとしては以下の2点です。

  1. コストがかかる
  2. いつ誰が自社の株主になるかわからない

上場をすればIR(投資家向け広報)や株主総会などのためにお金を使う必要があります。

そして、上場をして株式が市場にある限りいつ誰が自社の株主になるかわかりません。

本当は上記を踏まえて企業は上場を判断するべきと言えます。

実際、YKK・竹中工務店・JTBなど、非上場でも業界大手の企業は沢山あります。

上場していない企業=社会的な信用がない、とは決してならないわけです。

 

逮捕後

「モノ言う株主」として活躍し、企業に対して成長のための提案をしてきた村上世彰ですが、有名になるにつれ、その言動は「企業は一生懸命に働いている従業員のもの」と考える旧来の日本の考え方をもつ人々から非難されるようになります。

そして、2006年にインサイダー容疑で逮捕されます。

ニッポン放送の株を保有していた時、ライブドアのホリエモンから「ニッポン放送の株式を5%買いたい」という趣旨の言葉を聞き、その情報を元に株の取引きをしたという容疑がかけられたのです。

当時のライブドアの財務状況から考えるとこのホリエモンの言葉は夢物語に等しく、同じような状況で処罰を受けた人間は過去に一人もいませんでした。

しかし、そんな村上に世間はバッシングを浴びせ、逮捕・起訴されることとなり村上は表舞台から姿を消しました。

実刑判決を受け出所した後、村上は世間の姿をさらすことはなくなりましたが、個人的にNPOや、介護施設の運営、被災地支援などに力を注いでいきました。

投資活動も個人の資金で続けており、IT企業の投資に関しては、自分が逮捕される原因をつくったと言っても過言ではないホリエモンのアドバイスを受けながら投資をしているといいます。

 

まとめ

「生涯投資家」を書いたきっかけは、2015年に自身の意思を継いで投資家になった娘が強制捜査を受けたことでした。

妊娠中にもかからず度重なる事情聴取を受けて、ついには子供を死産してしまい泣きじゃくる娘の姿を見て、自分の世間での評判が悪いからこのような不幸が起こってしまったのだと綴られています。

(この強制捜査はいまだに立件されておらず、東芝の粉飾決算から世間の目を逸らすためだったとも言われています)

改めて、自分が投資家として何をしたかったのか、何を社会に問い掛けたかったのかが熱く語られているのが、この「生涯投資家」です。

えてして人は仕事をすること・お金を稼ぐこと自体が目的になってしまいます。

しかし、もっとも大事なのは何を実現したいか・どうなりたいかということでしょう。

「生涯投資家」はそれを思い出させれてくれる渾身の一冊です。

 

 

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

この記事を書いている人 - WRITER -